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東北大学病院臨床研究推進センター CRIETO Report掲載 医科・歯科機器用高洗浄化洗剤「ケディクリーンEX/TZK」

2019年05月08日

 

 

医療現場での課題探索から研究開発まで支援する、アカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)に参加した株式会社ケディカと東北大学とが共同で、医療器具用高清浄洗浄剤「ケディクリーンEX/TZK」を開発し、販売開始から1 年が経ちました。開発にかかわった4 名に、製品化までの経緯や直面した課題などについてお話しいただきました。

―今回の製品開発の経緯について教えてください

中川:ケディカ社はASU参加当初、滅菌機能をもつめっき技術の応用先を探したいとのことだったんですね。院内の複数の部署でクリニカルイマージョン(濃密な現場観察)を行った結果、当初想定した部署では事業化に資するニーズはなく、当初考えてもいなかった材料部で技術とニーズが見事にマッチングしました。

金澤:材料部では、これまで医療器具は大型機のシャワー(WD)で洗い、細かい汚れは一つひとつ拡大鏡で確認してブラシで取り除いていました。ところが、歯科治療器具のリーマーやファイルのように針状で小さく、表面にくぼみのある器具は、視力の個人差もあり、付着したセメントをきれいに取り除くことが困難でした。さらにWDで洗う際には、網容器から飛び出し器具が曲がったり刺さって怪我をしたりもします。1日に1,000 本ほど洗って仕分けますが、それがとても大変で、管理面からどうにか改善したいとの思いがずっとありました。

髙田:今回開発されたケディクリーンEX/TZKの特徴は、従来の洗浄剤がタンパク質を落とすことに特化していたため残りがちだった歯科用セメントを、同時に除去できるということです。基本的に歯科用セメントというのはキレート反応や酸塩基反応などの化学反応でつながっていますが、その結合を切ることのできる安全な化合物を、今回ケディカ社が見つけたのです。つまり、タンパク質は従来のアルカリ洗浄剤の成分で、セメント等の接着剤は新たな特殊成分で結合を切ることによって落とす、という仕組みです。

三浦:我々はめっきを主体とした表面処理が専門ですが、表面処理は、洗浄を行わなければ施すことができず、そのノウハウがすでに社内に蓄積されていました。医療用としてタンパク質やセメントを対象としたのは初めてですが、技術と経験をもとに洗浄剤開発に取り組み、「第11回 みやぎ優れMONO」の認定もいただきました。

―製品開発のなかで苦労された点はどんなところですか

中川:今回の製品開発では、当初、「医療器具をピカピカに清浄にする」という顧客価値に根差したソリューションを開発したのですが、八重樫病院長(当時)にご相談に行ったところ、「ピカピカになることはいいことだが、医療経済性の訴求効果がないといくら東北大学病院で開発したものでも採用はできない」とご指摘をいただきました。そういったことをふまえ、医療経済効果のある顧客価値を出せる歯学部の領域に方針転換(pivot)しました。髙田准教授にご指導いただきながら、東北大学病院規模で使用した場合の費用削減効果を金澤さんがデータとして示すことができたのです。そのデータをご覧になった八重樫病院長は「明日からでも採用したい内容ですね」とおっしゃってくださったのを昨日のことのように覚えています。いかに優れた技術も、購入意思決定者のペインを的確に解決するものできなければ1円すら出してもらえないのだ、とビジネスのイロハを教えていただきました。さらに今回最も難しかったのが、洗浄剤に関する規制がないことでした。これについては髙田准教授をはじめ多くの方々にご指導をいただきました。

髙田:今回の開発で据えた達成目標は、大きく二つありました。一つは、汚れがよく落ちること。もう一つは、洗われるものがダメージを受けないこと。この二つは、一方を立てると他方がだめになり、中庸をとるのがとても難しい。さらにその中庸をとるため通常はISO(国際標準規格)やJIS(日本工業規格)などの規格を参照し、それをクリアするように仕上げるわけですが、今回は規格そのものがないわけです。洗浄剤に規定が必要なかったのは、洗浄剤が汚れとともになくなるためと考えると、「きれいになくなる」ことを証明すればエビデンスになるのではと試験を進めました。ケディカ社でタンパク質と同時にセメントを落とす洗浄剤をある程度のところまで開発されていましたので、それを生体材料と同レベルの試験で評価していきました。安全面から濃過ぎてはならず、でも薄過ぎると汚れが落ちず、その妥協点を一緒に探していく工程は、やはり苦労したところです。

三浦:実に何百回と調合の比率を変えました。商品化までに3年ほどかかりましたが、テーマが決まってから2年以上の期間を試験等にあて、宮城県産業技術総合センターにも協力いただきました。

―ASUプログラムに参加されていかがでしたか

三浦: 一言で言うととてもよい経験をさせていただき、我々の事業の発展にも結びつく結果となりました。地域社会への貢献をはじめ、我々の企業理念や方針とすべてが合致するプログラムでしたので、目標と利益とが同時に達成されるものでした。表面処理業は顧客の品物に付加価値をつける産業ですが、そんな企業から製品を生み出したいというのが私の夢で、それが叶えられた場でもありました。

金澤:ケディカ社は何かあればすぐ飛んできてくれて、本当にありがたいことでした。材料部内に机も顕微鏡も、全部そろっていて。

三浦:まるで支所のように(笑)

金澤:はい(笑)こちらが困っているときは提案してくださったり、アイデアを交換できてとてもよかったです。

髙田:今回のように実際の現場と企業の方がそろい、そこに医療材料や機器を評価する私たちのような分野がつなぎ役で入ると、非常にいい組み合わせができます。要するに現場の声がそのまま開発にフィードバックされるのです。方針転換なども早く、非常にいい雰囲気でした。個人的には、今回の洗浄剤開発において、規格がないことがいかに大変かを痛感しました。私は、磁石の吸着力で義歯を口腔内に固定する磁性アタッチメントのISOの策定委員を担っているので、今後は洗浄剤の規格づくりに向けた新規事業項目提案(NP)を挙げたいと思っています。各国の投票(NP投票)で可決されれば、新規事業として承認され、世界各国が参加するかたちでISOの規格づくりに入りますから、ケディカ社のような日本のよい製品をアピールする機会にもなると思います。

三浦:ありがとうございます。引き続き髙田先生や金澤さんにご協力いただき、今度は洗浄の前後処理なども含めた開発ができればと考えています。ケディクリーンEX/TZKは今後さらなる全国展開を目指しており、販路面では中川先生に様々に橋渡しいただきました。

中川:私たちが最も配慮する点は何より患者さんや医療従事者の治療の妨げにならない、心配をかけない、ということです。その上でASUに関わるすべての医療プロフェッショナル、職員のみなさんに関わってよかった、と思っていただける仕組みの構築を行うとともに医療現場観察のプラットフォームとしての魅力を高めることで多くの企業に参加いただき、ここからイノベーションを世界に向けて出していただければ、と考えています。その魅力は、すべての診療科と部署、今回であれば髙田准教授や金澤さんのような経験豊かな医療プロフェッショナルと職員が協力してくださることにつきます。今後もケディカ社のような優れた日本の技術が医療現場のニーズとつながり、迅速な事業化を通じて卓越した体験を患者さんと医療プロフェッショナルに届けられるように努めたいと思います。

東北大学病院臨床研究推進センター CRIETO Report 22号